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指揮官の言葉 ― 部下・部隊に伝えたかったこと ―

「指揮官の言葉」シリーズ全体案内

「指揮官の言葉」シリーズ全体案内

私は航空自衛隊で勤務していた時代、部下・部隊とのつながりを常に意識し、積極的な部隊視察・訪問を心掛けていました。視察等の機会には、自らの意思を明確に、直接伝えるため、隊員への訓示等を必ず行うことにしていました。

その時々に、任務遂行から隊務運営にわたる伝えたい思いや考えを自分自身の言葉で整理し、事前に原稿を作成していました。定年退職後にそれらを見返す中で、当時の判断や悩み、部下に伝えたかった本質は、時代が変わっても色あせるものではないと感じています。

本シリーズでは、訓示等の原文だけでなく、その背景、当時の思い、今あらためて感じていることを添えて順次公開します。現役の自衛隊員をはじめ、組織を率いる方、これからリーダーを目指す方にとって、指揮・統率を考える材料となれば幸いです。

令和8年8月3日 福江広明


公開済み記事一覧


新カテゴリーへの移行状況

Vol.1~Vol.4は、すべて新しい「指揮官の言葉」カテゴリーへ移行済みです。旧「指揮官の言葉」ページに残る記事はなく、重複掲載もありません。


今後の掲載予定

  • 西アフリカに関する記録
  • 年頭の辞
  • 初めての訓示

準備が整ったものから順次掲載します。

元航空支援集団司令官シリーズ Vol.1:「伝統は受け継ぎ、未来は創る」

公開日:令和8年8月3日


1.題材:「航空支援集団司令官 就任の辞」(平成26年8月5日) 
  一言にまとめると、『良い組織は、前任者への敬意の上に築かれる。』


2.要約

航空支援集団司令官への着任に当たり、私は隊務運営の基本方針として「変化への適応」「矜恃の保持」「改善と自律の追求」の三つを統率方針として示した。

しかし、この三項目は、私が一から考えたものではない。

航空支援集団は長年にわたり築き上げられた組織であり、司令官は通常1~2年で交代する。そのため、新しい司令官がすべてを変えるのではなく、前任者が築き上げた良き伝統や統率方針を十分に尊重し、その上に新たな考えを積み重ねることが、組織を発展させ続ける上で重要であると考えた。

  そこで私は、前任の半澤司令官(防大24期)が掲げた「変化への適応」と「矜恃の保持」を継承し、新たに「改善と自律の追求」を加えて、自らの統率方針とした。


3.「就任の辞」の全文
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4.「就任の辞」の背景

航空支援集団のような編合部隊を率いる司令官は、通常1~2年という限られた期間で部隊を率いる。

そのため、新任司令官が前任者の方針を否定して新しいことだけを始めるのではなく、優れた考え方や組織文化を受け継ぎ、その上に時代に応じた新しい考えを加えていくことが、組織の継続的な発展につながると私は考えていた。これが指揮官のあるべき姿だと信じていた。

前任の半澤司令官は、防衛大学校でも一期先輩に当たり、その人格と識見、そして組織運営には深い敬意を抱いていた。

そのため、着任に当たっては、半澤司令官が示された統率方針を十分に踏まえ、新たな視点を一つ加える形で、自らの「就任の辞」をまとめた。


5.就任の辞で真に伝えたかったこと

  • 指揮官には、組織を健全かつ精強なものへ導く責務がある。
  • 良い組織文化は継承すべきである。
  • 改革とは、伝統を否定することではない。
  • 前任者への敬意が組織を強くする。
  • 変化と継承は両立できる。

6.今振り返って

今振り返っても、この判断は間違っていなかったと思っている。

指揮官には自らの考えを示す責任がある。しかし、それ以上に大切なのは、部隊が長年積み重ねてきた歴史や伝統を尊重する姿勢である。

指揮官は一時的な存在であり、組織はその先も続いていく。

だからこそ、前任者から受け継ぐべきものは受け継ぎ、改善すべきものは改善する。その積み重ねが組織を成長させるのだと考えている。


7.現代へのメッセージ(第三者の視点から)

「改革」と「継承」は対立する概念ではありません。

本稿で印象的なのは、新任司令官でありながら、自らの独自性を強調するのではなく、まず前任者への敬意を示し、その上で新たな視点を一つ加えた点です。

現代では組織改革が語られることが多い一方で、優れた組織ほど「受け継ぐべきもの」と「変えるべきもの」を見極めています。この訓示は、自衛隊だけでなく、企業や行政組織においてもリーダーシップの本質を考える示唆を与えてくれます。

元航空支援集団司令官シリーズ Vol.2:「変化を恐れず、矜恃を持ち、自ら考えて改善する組織であれ」

公開日:令和8年8月10日


1.題材:府中基地隷下部隊に対する初度視察訓示」(平成26年8月21日)

一言にまとめると、『変化を恐れず、矜恃を持ち、自ら考えて改善する組織であれ。』


2.要約

航空支援集団司令官着任後、府中基地に勤務する隷下部隊の隊員に対し、私自身と府中基地との関わりや、航空保安管制・航空気象の重要性を強く認識するに至った経験を伝えた。

特に印象深かったのは、千歳基地司令として平成20年7月の北海道洞爺湖サミットを現地で支援した経験である。霧による厳しい気象条件の中、各国政府専用機を安全に受け入れることができた背景には、航空管制と航空気象に携わる隊員の確かな任務遂行があった。

その経験を踏まえ、航空支援集団司令官として「変化への適応」「矜恃の保持」「改善と自律の追求」という三つの統率方針について、改めてその意味を説明した。


3.訓示の全文
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4.この訓示の背景

私が航空支援集団司令官として着任する以前、府中基地で勤務した経験は一度だけであった。

平成6年、西部航空方面隊司令部の防衛班長として勤務していた際、米国フロリダで実施された日米共同指揮所演習「ブルーフラッグ」への参加準備のため、当時府中基地に所在していた航空総隊司令部に臨時勤務した時のことである。

当時の航空支援集団は、改編からまだ年月が浅く、国際平和協力活動への参加など、その任務と活動の幅を大きく広げ始めた時期でもあった。

その後、私が航空保安管制と航空気象の存在意義を最も強く意識したのは、平成19年から21年まで千歳基地司令を務めた時である。

中でも忘れられないのが、平成20年7月の北海道洞爺湖サミットである。当時、私は現地における統合任務部隊指揮官として支援に当たった。霧による天候不順が続き、参加国首脳を乗せた政府専用機が、場合によっては東京方面へ目的地を変更せざるを得ないような厳しい状況であった。

そのような中、各国政府専用機を次々と千歳に受け入れることができた。その陰には、管制塔で航空保安管制業務に当たった管制隊、そしてシーフォグの進入を的確に把握するため、苫小牧にまで進出して気象予報に当たった気象隊の存在があった。

この経験を通じ、航空管制と航空気象が航空任務を支える上で、いかに重要な役割を果たしているかを強く実感した。

その後、私自身が管制群、気象群を含む航空支援集団を指揮する立場になったことには、特別な感慨があった。


5.三つの統率方針

  着任に際して、私は次の三つを統率方針として示した。

① 変化への適応
② 矜恃の保持
③ 改善と自律の追求

  ①と②は、航空支援集団の良き気風と伝統を継承するという観点から、前任の半澤司令官が掲げた所信を受け継いだものである。

① 変化への適応

組織も人も、環境の変化に適応していかなければならない。

過去の成功体験だけにとらわれることなく、時代の要求や情勢の変化を敏感に捉え、先見性を持って自ら変わっていくことを恐れてはならない。

私は、

「伝統とは、変革・改革・改善の積み重ねである」

と考えていた。

伝統を守るということは、昔からのやり方をそのまま残すことではない。変えるべきものを変え続け、その積み重ねの中から良き伝統が生まれるのである。

② 矜恃の保持

航空自衛隊は、その基本理念の一つとして「国家主権の保持、国民の安全確保」を掲げている。

これは、自衛官として任務を遂行する上で共通して持つべき価値観である。

国家・国民を守るという使命に誇りと責任を持ち、それにふさわしいプロフェッショナルとしての言動を貫く。

私は、その姿勢を「矜恃」という言葉で表した。

③ 改善と自律の追求

厳しい予算・人員上の制約がある一方で、部隊に求められる任務は増え続ける。

その中で、より質の高い任務遂行を実現するためには、常に業務を見直し、改善を積み重ねる姿勢が欠かせない。

同時に重要なのが「自律」である。

一人ひとりが、自衛官として、また一人の社会人として、自らを律して勤務し、生活する。

「不注意だった」「魔が差した」「迂闊だった」という一瞬の軽率な行為によって、それまで築いてきた信頼を失うことのないよう、自らを強く律してほしいと考えていた。


6.この訓示で真に伝えたかったこと

  • 組織は、環境の変化に適応し続けなければならない。
  • 伝統とは、変化を拒むことではなく、改善を積み重ねた結果として生まれる。
  • 自衛官は、自らの使命に誇りと責任を持つべきである。
  • 組織の改善は、誰か一人が行うものではなく、一人ひとりの行動から始まる。
  • 規律とは、命令されて守るものだけではなく、自らを律する姿勢によって支えられる。
  • 任務完遂と事故皆無を両立させることが、指揮官と隊員に共通する責務である。

7.今振り返って

この訓示を振り返ると、三つの統率方針の中でも、特に「改善と自律の追求」は、自分自身の考えを色濃く反映した言葉だったと思う。

指揮官がどれほど方針を示しても、実際に組織を動かしているのは、一人ひとりの隊員である。

現場の隊員が自ら考え、より良いやり方を追求し、同時に自分自身の行動を律する。その積み重ねがなければ、組織は決して強くならない。

また、千歳基地司令時代に経験した北海道洞爺湖サミットで、管制隊や気象隊がそれぞれの持ち場で使命を果たす姿を目の当たりにしたことは、私にとって大きな経験であった。

華々しい成果の背後には、目立たなくとも、それぞれの専門分野で黙々と任務を遂行する隊員がいる。

航空支援集団司令官として、そうした隊員一人ひとりの仕事に光を当て、その使命と価値を自覚してもらいたいという思いが、この訓示には込められていた。


8.現代へのメッセージ(第三者の視点から)

この訓示には、現在の組織運営にも通じる三つの重要な視点があります。

第一は、「変化への適応」です。

環境の変化が速い時代ほど、過去の成功体験は組織にとって強みであると同時に、変化を阻む要因にもなり得ます。「伝統とは、変革・改革・改善の積み重ね」という考え方は、伝統と改革を対立させず、一つの連続した営みとして捉えています。

第二は、「矜恃」です。

専門職として自らの仕事に誇りと使命感を持つことは、規則や命令だけでは生み出せない組織の強さにつながります。

第三は、「自律」です。

複雑化する組織では、すべてを上司が細かく指示することはできません。一人ひとりが組織の目的を理解し、自ら考え、判断し、行動する。そのためには、自由だけでなく、自らを律する力が不可欠です。

「変化への適応」「矜恃の保持」「改善と自律の追求」。

この三つは、自衛隊だけでなく、企業や行政組織を率いるリーダーにとっても、今なお有効な組織運営の原則と言えるでしょう。

最後に、読者の皆様へ

あなたが今いる組織で、「変えるべきもの」と「守るべきもの」は何でしょうか。
そして、自分自身で今日から改善できることは何でしょうか。

元航空支援集団司令官シリーズ Vol.3:「事故防止は、まず指揮官自身の問題である」

公開日:令和8年8月22日


1.題材:「指揮官VTC」(平成26年8月7日)

一言にまとめると、『事故防止は、まず指揮官自身の問題である。』


2.要約

平成2687日、航空幕僚長主催による編合部隊指揮官等のVTC(ビデオ会議)が開催された。

この時期は主要指揮官の人事異動直後でもあり、安全・服務規律の徹底が主要なテーマであった。

私は航空支援集団司令官として、飛行安全、服務規律、自殺事故防止の三点について意見を述べた。

その際、まず念頭に置いたのは、事故防止を隊員だけに求めるのではなく、指揮官交代に伴う「我々指揮官自身の気の緩みや配慮不足」が事故につながってはならないということであった。

事故を未然に防ぐためには、部下への指導だけでなく、指揮官自身が組織の状況を敏感に捉え、自らを律し続ける必要がある。


3.当時の背景

このVTCが行われた平成268月は、航空自衛隊の主要指揮官等の人事異動が行われた直後であった。

航空支援集団でも、私自身をはじめ、副司令官、第1輸送航空隊司令、第3輸送航空隊司令など、主要指揮官が交代したばかりであった。

人事異動は組織に新しい力をもたらす一方、指揮官と部下、あるいは新旧の組織関係がまだ十分に形成されていない時期でもある。

私は、このような「指揮転移」の時期だからこそ、隊員に注意を求める前に、まず我々指揮官自身に気の緩みや配慮不足がないかを自問する必要があると考えていた。

VTCでは、飛行安全、服務事故、飲酒運転、自殺事故等の状況について航空幕僚監部から説明があり、その後、各部隊指揮官がそれぞれの認識や取組について意見を述べた。

以下は、その際に航空支援集団司令官として私が発言した内容である。


4.指揮官VTCにおける発言全文

支援集団です。まずは空幕からの服務安全に係る各種状況のデータの提示、そして、私どもに対します、この時期に事故防止上の注意喚起の機会を与えていただきましたことに感謝申し上げます。

支援集団も、私、それから副司令官、第1及び第3輸送航空隊司令等、主要指揮官が今度の異動で交代したばかりであります。

この指揮転移に伴う我々指揮官の、自らの気の緩みや配慮の不足から、各種事故を発生させないということに十分留意しているところです。

まず、飛行安全です。当集団においては平成242月、第2輸送航空隊のC-1において、乱気流による乗客11名の上空での負傷がありました以降、大きな事故は発生しておりません。

しかしながら、その後、断続的にヒューマンエラーによる事故が生じております。したがいまして、今後は人的過誤を事故に発展させない、あるいは結びつけない、といったところに力点を置いて、司令部から直接安全指導を強化させたいと考えております。

次に服務規律であります。当集団は、例年約30件程度の同種事案を発生させております。昨年度も28件ございました。幸いにして、今年度はこれまで、欠勤、私行上の非行といった形で2件と、比較的良好な状態を維持しております。

これは前司令官のこれまでの安全指導の賜物だと感謝しておりますし、この状態を維持しつつ、今後、絶無を目指すことについても重視していきたいと思っております。

とりわけ府中基地は、夕刻から納涼祭でありますので、飲酒に伴う事故等を発生させぬよう、私も含めてしっかり指導していきたいと思っております。

最後に、自殺事故防止です。当集団は、過去10年の間に約18件の自殺事案が発生しております。昨年も3件ございました。

今年度は、これまで幸いにして発生しておりませんが、いずれにしましても、隊員相互の「気づき力」、これに力点を置いて指導していきたいと思います。

私も一昨年、西部航空方面隊司令官として勤務していた折、2名の隊員の尊い命を失うことに直面しました。あの時のことは今でも悔やまれてなりません。

したがって、航空支援集団司令官としては、指揮統率上、最も大きな関心事の一つとして、この事故防止に取り組んでいく所存です。以上です。


5.この時、真に伝えたかったこと

  • 事故防止は、部下だけに求めるものではなく、まず指揮官自身の責任である。
  • 指揮官交代など組織が変化する時期ほど、気の緩みや配慮不足に注意しなければならない。
  • ヒューマンエラーを完全になくすことだけでなく、それを重大な事故へ発展させない仕組みと指導が重要である。
  • 服務規律は、指導を継続することによって維持される。
  • 隊員の命を守るためには、上司・同僚を含めた一人ひとりの「気づき力」が不可欠である。
  • 指揮官は、部下の事故や命の問題を「組織の数字」としてではなく、自らの問題として受け止めなければならない。

6.今振り返って

この時の発言を今読み返して、特に強く感じるのは、「指揮官自身の気の緩みや配慮の不足」という言葉である。

指揮官になると、部下に対して「安全に注意せよ」「服務規律を守れ」と指導する立場になる。しかし、事故や服務事案が発生した時、その原因を部下だけに求めてよいのか。

指揮官として、もっと早く異変に気づくことはできなかったか。必要な指導や配慮が不足していなかったか。組織として事故を防ぐ仕組みは十分だったか。

そうした問いを、まず自分自身に向ける必要があると考えていた。

特に、過去に部下の尊い命を失った経験は、私自身に大きな悔いとして残った。

だからこそ、航空支援集団司令官として、事故防止、とりわけ隊員の命を守ることを、指揮統率上の重要な責務として強く意識していたのである。


7.現代へのメッセージ(第三者の視点から)

この発言で注目したいのは、事故防止を「部下の注意力」の問題だけにしていない点です。

組織で事故や不祥事が起きた時、「本人が注意すべきだった」「規則を守るべきだった」と考えるだけでは、同じことが繰り返される可能性があります。

リーダーに求められるのは、「なぜその失敗が重大な結果にまで発展したのか」「組織として途中で食い止めることはできなかったのか」という視点です。

また、人事異動や組織改編などの移行期には、それまで機能していた人間関係や情報共有の仕組みが一時的に弱くなることがあります。

だからこそ、変化の時期ほど、リーダー自身が組織の状態に意識を向ける必要があります。

さらに、「気づき力」という言葉には、安全管理だけではなく、人をよく見るというリーダーシップの基本が含まれています。

部下に注意を求める前に、自分たち指揮官に見落としはないかを問う。

この姿勢は、自衛隊に限らず、現在のあらゆる組織のリーダーにも通じるものではないでしょうか。


  最後に読者の皆様へ
あなたの組織で事故や問題が起きた時、最初に「本人の責任」を考えてはいないでしょうか。
指揮官・リーダーとして、その前に自分自身に問いかけるべきことは何でしょうか。

元航空支援集団司令官シリーズ Vol.4:「変わるべきものを変え、受け継ぐべきものを受け継ぐ」

公開日:令和8年9月10日


1.題材:「入間基地での初めての訓示」(平成26年8月29日)

一言にまとめると、変わるべきものを変え、受け継ぐべきものを受け継ぐ。』


2.要約

平成26年8月29日、航空支援集団司令官として入間基地の隷下部隊を初度視察した。

入間基地は、私が昭和56年、幹部候補生学校を卒業した直後に配置された初任地でもある。当時はまだ航空支援集団という組織は存在せず、その後、組織改編や国際平和協力活動への参加など、航空自衛隊を取り巻く環境とともに、その任務・活動は大きく変化していった。

若い幹部として勤務した思い出の基地を、33年後、編合部隊指揮官の立場で視察し、時代とともに変化してきた部隊の姿を目の当たりにした。

一方で、時代や装備、任務が変わっても、任務に対する責任感や誇りなど、組織として受け継ぐべきものがある。

この訓示では、入間基地との個人的な縁を振り返りながら、変化する組織を率いる上で大切にしていた考えを伝えた。


3.当時の背景

私にとって入間基地は、昭和56年9月、幹部候補生学校を卒業した直後の初任地であった。

第1高射群第4高射隊に配置され、当時の高射部隊はナイキシステムを保有していた。また我が国が北方におけるソ連の脅威を強く意識していた時代でもあった。

当時、航空支援集団はまだ存在していなかった。入間基地には、輸送航空団隷下の第2輸送航空隊、保安管制気象団隷下の飛行管理隊、入間管制隊、入間気象隊、飛行点検隊などが所在していた。

その後、それらの組織は航空支援集団へと改編され、さらに国際平和協力活動に参画するなど、その任務・活動は安全保障環境の変化とともに大きく変貌していった。

若い幹部として勤務した基地に、今度は航空支援集団司令官として戻り、そこに所在する実績ある部隊を直接指揮することになったことには、特別な感慨があった。


4.「指揮官の言葉」― 訓示原文

航空支援集団司令官 入間基地初度視察訓示
平成26年8月29日

入間基地に所属する隷下部隊の諸官、本日の視察及びこれまでの準備、ご苦労様。そして航空支援集団の任務遂行に昼夜を問わず精励努力していることに対して心から敬意を表したい。

私にとって、入間基地は昭和56年9月、幹部候補生学校を卒業した直後の初任地である。第1高射群第4高射隊に配置になり、当時、高射部隊はナイキシステムを保有、そして我が国は北方においてソ連の脅威を肌で感じていた時代であった。

当時は航空支援集団は存在せず、輸送航空団隷下の第2輸送航空隊及び保安管制気象団隷下の飛行管理隊、入間管制隊、入間気象隊、飛行点検隊があった。

それから10年の月日を待つことなく、航空支援集団として改編され、そのわずか4年後には国際平和協力活動に初めて参画するなど、支援集団は任務・活動において情勢の変化とともに大きく変貌を遂げていくのである。

さて、本日の初度視察を通じて諸官の部隊にそれぞれ期待することは個別に述べたところであるので、ここでは私の認識のほどを総括する。

まず第2輸送航空隊については、C-1の減勢管理を適正に実施しながら、昨今では国内空輸のみならず国外運航の任を担う勢いを有している。

飛行管理隊にあっては、主に中空エリアの飛行管理並びにFADPの維持管理において、それぞれ安定した業務を推進している。

入間管制隊は、関係部隊と連携した上で多種多様な航空機のきめ細かい航空管制及びターミナル管制の各種業務を的確に実施している。

入間気象隊は、いわゆる方面気象隊として中空関係部隊に適時気象状況を提供しつつ、新潟救難隊の任務支援についても抜け目なく実施している。

飛行点検隊においては、保有機の可動率の最大確保を図りながら、陸・海・空が管理する航空保安無線施設等の飛行点検を実施。本年には初の国外任務も遂行している。

こうした実績ある入間所在の隷下部隊を、今般私が直接指揮するに至ったことは誠に光栄なことであり、心から感謝する次第である。


【編集注】

この後、訓示では、就任時に示した三つの統率方針、

「変化への適応」
「矜恃の保持」
「改善と自律の追求」

について説明しています。

これらは他の初度視察においても共通して伝えた内容であるため、本シリーズでは重複を避け、基本的な説明部分を割愛します。

三つの統率方針の詳細については、「指揮官の言葉」元航空支援集団司令官シリーズ Vol.2をご覧ください。

ただし、この入間基地での訓示において、私が「変化への適応」について述べた次の言葉は、この日の訓示全体を象徴するものとして、ここに改めて記しておきたい。

「過去の成功体験にこだわることなく、時代の要求、情勢の変化等に敏感に反応し、先見性を持って変革することを恐れてはならない。」

そして、

「伝統とは、変革、改革、改善の積み重ねである。」


5.この訓示で真に伝えたかったこと

第一は、組織は変わり続けなければならないということである。

私が若い幹部として入間基地に勤務していた時代と、航空支援集団司令官として戻ってきた時代とでは、組織、装備、任務、そして我が国を取り巻く安全保障環境は大きく変わっていた。

過去の成功体験にとらわれ、これまでのやり方を守ることだけでは、新しい任務や環境には対応できない。

第二は、変革と伝統は対立するものではないということである。

伝統とは、昔からのやり方をそのまま守り続けることではない。先人たちが、その時々の環境に適応するために行ってきた変革、改革、改善の積み重ねが、やがて組織の伝統になる。

そして第三は、変化する中でも、守り続けなければならないものがあるということである。

それが、任務に対する責任感、プロフェッショナルとしての誇り、そして自ら考え行動する姿勢である。


6.今振り返って

昭和56年、幹部候補生学校を卒業したばかりの若い幹部として入間基地に赴任した時、後に自分が航空支援集団司令官として、この基地に戻ってくることなど想像もしていなかった。

その間、冷戦が終わり、自衛隊を取り巻く安全保障環境も、航空自衛隊に求められる任務も大きく変化した。

装備も変わり、組織も変わり、活動する地域も国内から国外へと広がっていった。

しかし、振り返ってみると、その変化を実際に支えてきたのは、各時代の現場にいた一人ひとりの隊員であったと思う。

指揮官が示す方針やビジョンだけで組織が変わるわけではない。

現場の隊員が、その意味を理解し、自ら考え、改善し、それぞれの持ち場で行動する。その積み重ねによって、初めて組織は変化することができる。

「伝統とは、変革、改革、改善の積み重ねである。」

今振り返っても、この考えは変わらない。


7.現代へのメッセージ(第三者の視点から)

この訓示で印象的なのは、「伝統」と「変革」を反対のものとして捉えていないことです。

長く続いている組織ほど、「これまでこうしてきた」という成功体験を持っています。それは組織の強みである一方、環境が変化した時には、新しい発想や行動を妨げる要因にもなり得ます。

だからといって、過去を否定して新しいものに置き換えればよいわけでもありません。

重要なのは、

何を守り、何を変えるのか。

その判断を繰り返すことです。

入間基地で若い幹部として勤務した時代から33年。組織も装備も任務も大きく変わりました。

しかし、その変化自体が、それぞれの時代の隊員たちによる改善と挑戦の積み重ねだったと考えれば、

「伝統とは、変革、改革、改善の積み重ねである」

という言葉の意味がより明確になります。

これは自衛隊だけではありません。

企業、行政、大学など、歴史を持つあらゆる組織にとって、「伝統を守る」とは何を意味するのかを考えさせる言葉だと思います。


8.読者への問い

あなたの組織には、「守るべき伝統」と「変えるべき慣行」がありませんか。

そして、

10年後、それを「良い伝統」として次の世代に残すために、あなた自身が今、改善できることは何でしょうか。