ASPI航空宇宙戦力研究所

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意見発表等

「米空軍・宇宙軍ウォーフェア・シンポジウム2025の概要について(速報)」

この記事(下記のPDFをクリックしてください)は、当プロジェクト・メンバーの一人である荒木淳一が、平素から米空軍等の動向に関心を寄せている中で、現役自衛官等との共有を図るために掲載したものです。 時期的に若干掲載が遅れて申し訳ありません。

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「令和の時代における航空自衛隊のレディネスを考える -米空軍のレディネスへの取り組みを参考にして-」

この記事(下記のPDFをクリックしてください)は、当プロジェクト・メンバーの一人である荒木淳一が、平素から米空軍等の動向に関心を寄せている中で、現役自衛官等との共有を図るために掲載したものです。

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「空軍指揮官としてのビジョン、マインドセット、リーダーシップ」

この記事(下記のPDFをクリックしてください)は、当プロジェクト・メンバーの一人である荒木淳一が、平素から米空軍等の動向に関心を寄せている中で、現役自衛官等との共有を図るために個人的に作成(令和7年1月12日)したものです。

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 記事は、AFM(エア・フォース・マガジン)に掲載された歴代空軍参謀総長のインタビュー記事を和訳したものと、
全参謀総長に共通の2つの質問(①それぞれの参謀長の足跡等から学ぶべき教訓と理由、②参考にすべきトップリーダーとしての姿勢、リーダーシップとその理由)とそれぞれの参謀総長の足跡で特徴的なポイントに関する2つの質問という構成になっています
 それぞれの時代の日本の安全保障環境、政策の転換、空自の状況の概略を付した上で、空自全体をマネジメントする立場にある空自幹部として、如何なるスタンスで日々の業務に臨むべきかを自ら考えてもらうという主旨でまとめられています。
 空自の編合部隊指揮官のみならず、多くの隊員、そしてOBにも読んでいただくことをお薦めします。

米空軍・宇宙軍ウォーフェア・シンポジウム2024の概要について

この記事は、メンバーの荒木淳一が、平素から米空軍等の動向に関心を寄せている中で、現役自衛官等との共有を図るために個人的に作成(令和6年2月19日)したものです。

 

1 趣旨

  本件は、米空軍・宇宙軍協会(Air and Space Force Association; AFA)主催のエアー・ウォーフェア・シンポジウム2024の概要並びに興味深い点等についてまとめるもの。

 

2 概要

(1)日時;令和6年2月12日(月)~14日(水)
(2)場所;米国コロラド州オーロラ市
(3)日程等(細部はシンポジウムの計画表を参照)
  ア 2月12日(月)

   〇基調講演並びにパネルディスカッション:「大国間競争のための再最適化-主要リーダーによる議論」(ケンドール空軍長官、ジョーンズ空軍長官補、サルツマン米宇宙軍作戦部長、オールビン米空軍参謀総長、モデレーター;ライトAFA会長)

   〇表彰式

  イ 2月13日(火)

   〇基調講演;「米宇宙軍の現状」(サルツマン米宇宙軍作戦部長)

   〇基調講演;「米空軍の現状」(オールビン米空軍参謀総長)

   〇パネル・ディスカッションのテーマ

    ・「速度感を持った変化の促進」

    ・「Space Order of Battle」

    ・「ドローンの脅威を打ち破る」

    ・「戦闘協調型無人機(Collaborative Combat Aircraft)」

    ・「対宇宙戦役のための将来の戦力設計」

    ・「妨害的戦争:非物理的破壊戦闘(Nonkinetic Fight)」

    ・「大国間競争における勝利の余裕;施設と作戦エネルギー」

    ★「インド太平洋軍における脅威への対抗(Defeating threats in  Indo-PACOM)」(空自宇宙群司令杉山公俊1等空佐がパネリストとして参加)

    ・「妨害的戦力としてのCCA」

    ・「宇宙領域における強靭性(Resiliency)

    ・「戦いに為の再最適化」

    ・「超音速兵器による戦い」

    ・「空軍省における戦闘ネットワーク(DAF Battle Network)の統合」

    ・「競争と紛争の列度の上昇」(ヘッカー欧州・アフリカ空軍司令官、ミニハン米機動軍司令官、ケリー航空戦闘軍司令官、シュナイダー参謀長、カーライル氏)

    ・「宇宙軍のデルタ:挑戦と機会」

    ・「航空宇宙における戦闘能力の実効性」

  ウ 2月14日(水)

   〇パネル・ディスカッション

    ・「戦いにおけるエアマンとガーディアン」(両軍最先任上級曹長等)

    ・「AIと最先端サイバー・ディフェンス」

    ・「CJADC2を梃子にする」

    ・「Air Task Forceと将来の戦力提供」

    ・「宇宙領域の状況掌握(Awareness)」

    ・「電磁波領域での圧倒的優位性の確保」

    ☆「連結し兵器に力を与える」(クロスピー准将(DAF Battle Networkプロジェクト責任者)、クレイトン准将(ABMS機能横断チーム責任者)

    ・「迅速機動展開(ACE)を実現させる要素」

    ・「商用宇宙の統合」

    ・「次世代のリーダーの育成」

    ・「インサイドからの戦い―前線地域における航空・ミサイル防衛」

 

3 興味深い点等

(1)全般

  〇本シンポジウムの大きな焦点は、昨年9月のAFA主催の航空宇宙サイバー・シンポジウム(ASCS)においてケンドール空軍長官が示した米空軍・宇宙軍の「再最適化(Re-Optimization)」に係る検討結果がどのような内容で、どのような形で公表されるかであった。検討に当たってのケンドール空軍長官の意図は、空軍長官名の文書(2023.09)(別紙第1:未掲載)にて既に示されていた。

  〇約5か月にわたる空軍省内での議論を踏まえて、新たな組織の編成(再編を含む)、新たな階級の創設(准尉の再採用)等の24項目からなる「米空軍省の再最適化」に関わる米空軍省、米空軍、米宇宙軍の三つの文書が、本シンポジウムに併せて公表された。(別紙第2、第3、第4を参照:未掲載)本シンポジウムにおいても、主要リーダーの基調講演やパネルディスカッションの中で「再最適化」にかかる個別の施策の狙いや方向性について言及され、空軍省全体に対する理解の浸透を図ろうとしていることが伺えた。

  〇その中で、2月13日の宇宙領域に関するパネルディスカッションにおいて、航空自衛隊宇宙作戦群司令の杉山公俊1等空佐がパネリストとして参加し、インド太平洋域における宇宙に関わる同盟国との共同の実態などについて議論していた。空自の現役幹部が本シンポジウムのパネリストに選ばれるのは恐らく歴史上初めての事であり、宇宙領域における同盟国等との連携を重視する米空軍・宇宙軍の意向が反映されたものと考えられる。同時に、宇宙に対する防衛省・航空自衛隊の今までの取り組みと実績が評価されている証とも言えよう。

 

(2)細部(「再最適化」に関する米空軍省文書の内容の概要)
  ア 人材の育成分野

   〇米教育訓練コマンド(AETC)を発展させたエアマン開発コマンド(Airman Development Commandの下で人材育成のプロセスを統合する。【部隊改編、AETC→ADC】

   〇IT及びサイバー分野の技術専門家を育成する為に准尉(Warrant Officer)の階級を復活させ、この分野における下士官のリーダーシップを確保する。【IT及びサーバー特技の准尉階級の復活(米空軍のみ)】

   〇戦時の作戦任務に対するレディネス確保に必要なスキルに焦点を当てた訓練により、「任務遂行準備の整ったエアマン(Mission Ready Airman)」を育成。【「多機能エアマン(Multi-capable Airman)」という概念の変更(より任務に焦点を当てたMission Ready Airmanの育成のための訓練体制の構築)】

   〇大国間競争の環境下で適切にエアマンやガーディアンを指揮統率できる将校育成の為、米空軍士官学校(USAFA)、将校教育学校(Officer Training School; OTS)、予備役コース(ROTC)におけるリーダーシップの育成・訓練の見直しを継続して進める。【幹部養成課程のシラバス等の見直し、OTSでは既にACE、Mission Command等に焦点を当てた「OTS-Victory」という新たな課程教育が始まっている】

   〇ハイテクの作戦要求に応えられるガーディアンを育成する為に経歴管理の道筋を再設計する。

 

  イ レディネスを高める分野

   〇航空戦闘コマンド(ACC)を統合軍指揮官に対して作戦準備の整った戦力を造成し、提供することに集中できるように再度方向づけ。【統合軍に提供される戦力を統合する機能をACC内に創設】  
   〇複雑で大規模な軍事作戦をリハーサルしたり、その能力を発揮する為、実作戦に焦点を当てた訓練や大規模な演習を実施。【大規模演習の復活】

   〇戦略的競争相手からの要求を反映させる為、事前通知なし又は制限された通知での作戦レディネスの評価、検閲を米空軍、米宇宙軍で実施。【事前通知なしの評価、検閲等の復活】

   〇兵器システムの健全性を改善する為、航空部品や兵器システムに関わる鍵となるプロセスをデータ主導型でリスクを通知できるものへと再構成。【航空装備軍(Air Force Material Command:AFMC)隷下に新たなセンターや室を編成】

   〇米宇宙軍のレディネス基準を、今までの脅威の存在しない緩やかな環境下における基準から、脅威下での作戦環境を念頭に置いた基準へ変更。【宇宙軍戦闘隊(SFCSQの新編)】

   〇米宇宙軍の実施してきた演習を空軍省レベルの枠組みに合致するよう範囲を拡大し、複雑さを増したものとして実行するともにレディネスを測定する軍種レベル、データ主導のプロセスを通じて評価する。【宇宙軍の演習の拡大、多層化。宇宙軍のレディネス評価の実施】

 

  ウ 戦力投射に関わる分野

   〇任務遂行可能な行動単位として米空軍の航空団の編制を再構成し、「展開戦闘航空団(Deployable Combat Wing;DCW)」、「配置戦闘航空団(In Place Combat Wing:ICW))」、「戦闘能力造成航空団(Combat Generation Wing;CGW)」に区分。それぞれの航空団はACEを支援できるよう再設計された特有の構成を持ち、配属されたユニットとエアマンで付与された任務を遂行できるように改編。【航空団の再編成】

   〇戦闘航空団(Combat Wing)と基地軍(Base Command)の関係を明確化。戦闘航空団は任務レベルで戦闘にかかわるレディネスに焦点を置き、基地軍は戦闘航空団を支援することを主任務として、競争、危機、紛争の全ての段階において基地を運用することに専念する。【戦闘航空団と基地軍との関係の再整理】

   〇米空軍省並びに統合軍におけるサイバー任務の重要性に鑑みて空軍のサイバー部隊をコンポーネントレベルの軍に昇格させる。【サイバー任務を担任する米第16空軍を新たな米空軍サイバー軍(Air Force Cyber Command)へ格上げ(司令官の階級は中将(三つ星)のままだが、米空軍参謀総長、空軍長官の直轄系統に改編】

   〇行動単位としての宇宙軍戦闘隊(Space Force Combat Squadron;SFCSQ)の新編、独立軍種としての宇宙軍構築過程で残された部分を完了すること並びに宇宙軍の戦力造成プロセスの実行を加速化。【宇宙軍における宇宙軍戦闘隊(SFCSQの新編】

 

  エ 能力構築に関する分野

   〇空軍省の近代化のための能力開発や資源投資の優先順位付けを主導する為、統合能力室(Air Force Integrated Capabilities Office)を空軍省内に新設。【統合能力室の新編】

   〇微妙な案件にかかる活動*を調整し、監督する為、競争力強化室(Office of Competitive Activities)を創設する努力を統合。【競争力強化室の新編】*ハラスメントや各種の差別等を無くし組織競争力を高める全ての活動と推測。

   〇資源投資に関わる判断のためのより分析的なアプローチを組み入れる構造を作るため、事業分析・評価室(Program Assessment and Evaluation Office)の創設【事業分析・評価室の新編】

   〇戦力設計に沿って優先順位付けされた近代化計画、統合された運用要求、競争的な作戦構想を開発する為に統合能力軍(Integrated Capabilities Command)を創設。【統合能力軍の新編】

   〇空軍のC3と戦闘管理、サイバー戦、電子戦、情報システム、組織的なデジタルインフラに対する関心を高め、強化するために、米空軍装備軍(AFMC)の中に新たな情報優越システム・センター(Information Dominance System Center)を創設。【情報優越システム・センターの新編】

   〇核戦力に対する支援を強化するため、現在の核兵器センターを拡大し米空軍核システム・センターを米空軍装備軍(AFMC)隷下に配置。この組織は核組織に対する包括的な物資的支援を実施。ICBMの為の事業特別室の中に少将(二つ星)のポストを設置。【米空軍核システム・センターへの改編、ICBM事業特別室への少将ポストの新設】

   〇航空機と兵器の競争的開発と事業管理を同期させるため、米空軍装備軍(AFMC)内のライフサイクル管理センターを航空優勢システムセンターとして再編。【航空優勢システムセンターへの改編】

   〇技術評価とロードマップを提供するため、装備軍(AFMC)内に統合開発室(Integrated Development Office)を創設。【統合開発室の新編】

   〇構想を開発・評価し、実験やウォーゲームを実施し、任務領域の設計を行うため、将来宇宙軍(Space Futures Command)を野外軍として創設。【将来宇宙軍の新編】

 
  オ その他

   〇従来ABMSと呼ばれていたJADC2を実現するための空軍省内の戦闘管理ネットワーク(DAF Battle Network)に関して、幾つかの進捗が明らかになった。先進的なC2ノードとなるシステム(戦術作戦センター-光;Tactical Operation Center -Light; TOC-L)のプロトタイプ16基が実戦配備され、検証実験を開始したとのことである。TOC-Lは、その記述振りから推測されるのは、持ち運び可能で展開先で指揮統制ネットワークにプラグイン、プラグアウトが可能な戦術・作戦にかかわる指揮統制ユニット・システムと考えられる。TOC-Lの将来の配備数は数百規模で数戦規模ではない。またTOC-Lは、米陸軍が進める「Project Convergence」のCapstone演習その4(2/23~3/20)にも投入され、検証が行われる予定となっている。当該演習にはメディア並びに同盟国等が招待されているが、「日本の参加」も明示されており、陸幕又は教育研究本部が参加している可能性がある。

   〇このTOC-Lは空軍省内の戦闘管理システムのもう一つの重要な柱であるクラウドベースC2(Cloud Base Command &Control; CBC2)とも関連している。CBC2は750以上のレーダー・データを一つの画面に統合し、人工知能を使って戦闘管理者(BM)が行動方針を選択・判断することを支援するものとされる。このCBC2は既に米北方軍(USNC)と北米航空宇宙防衛軍(NORAD)司令部に配備され、NORADの東部防空セクターとカナダ防空セクターで使用されている。

   〇戦闘管理に関してAWS2024のパネルディスカッションにおいてDAFBN(C3BM)の主要リーダーであるクロスピー准将とクレイトン准将が議論している内容がAFMの記事となっている。それによると戦闘管理には下士官(約2400名)、将校(約1800名以上)が関わっており、E-7Weddgetailが配備される2027年までの間、プラットフォームから切り離される懸念が表明されている。しかし、戦闘管理を13の具体的「サブ機能」に分割したモデルを既に作成しており、今後は戦闘管理者はプラットフォームに縛られることなく、新たなコンピュータシステムとソフトウェアで戦闘管理を行うとされ、既に試験段階にあるとされる。また、この戦闘管理に関わる13のサブ機能は既にFighter Weapon Schoolでシラバス化され教育が始まっており、次世代の戦闘管理者が必要なスキルセットを身に付けられるよう体制が整えられている。しかし、米空軍が推進するACE構想を具体化するにつれて戦闘管理は益々難しくなるし、クリティカル・シンキング(批判的思考)のスキルを持つ人材が求められるようになるとされる。

 

4 所見

 〇NSSで示された中国との大国間競争の下で必要とされる新たな能力は「7つの運用上の必須事項」に集約・整理されたと認識されている。それらの必須事項を実装化・具現化を進めつつ、空軍・宇宙軍を「再最適化」することが不可欠とケンドール長官の認識であった。従って、その検討を急ピッチで進め、人材育成、レディネス、戦力投射、戦力の統合の4つの区分で、24項目の具体的な施策が今回のAWS2024に併せて示されたものと理解できる。

 〇米空軍のこのような動きは中国との戦略的競争への対応を主要な柱と定めた国家安全保障戦略・国家防衛戦略の転換(2017NSS/2018NDS)を契機として加速化され、中国とのハイエンドの戦いに備えるための新たな戦い方(ACE、任務指揮、JADC2等)が議論され、必要とされる主要な能力(「7つの運用上の必須事項」)が絞り込まれてきた。その背景には、9.11以降、主として「テロとの戦い」に専念してきたこと、予算の制約が厳しかったこと等から米空軍として「三重苦」(戦力規模の低下、近代化の遅れ、レディネスの低下)に陥っているという問題認識があったからでもある。

 〇翻って、わが国においても2022年12月に安保関連3文書が策定され、反撃能力を保有し抑止を柱とする戦略への転換が示されたこと、防衛力を抜本的に強化するための7つの柱が明示されたこと等、米空軍同様に戦略上の大きな転換点にある。また、中国のA2ADの脅威を念頭に置いた新たな戦い方への転換が求められると共に持続性・強靭性の強化を図り現有戦力を最大限発揮する態勢の構築が求められているところである。冷戦期において専ら防空作戦を念頭に構築されてきた航空自衛隊においても、防衛力強化の7つの柱の具現化とともに安保3文書で示された新たな国家防衛戦略の目標(抑止、抑止が破れた場合はより遠方で早期に阻止・排除)を達成する為には空自全体の「再最適化」が必要ではないだろうか。更に、現有戦力のレディネスを図る資源投資の指標としての、戦闘機等の可動率や年間の飛行訓練時間などが大幅に低下してきている現状を踏まえると、新たな戦略に基づく練成訓練の基準や目標を見直す必要がある。更に新たな基準や目標に基づき、現用戦力のレディネスを検証・評価する必要があるのではないだろうか。仮に「空自のシンカ」にかかる検討がそれらを網羅していたとしても安保関連3文書や米空軍・宇宙軍の動向を踏まえた補正や整合が不可欠であろう。中でも飛行訓練時間の減少や演習機会の喪失など、空自の隊員・部隊の作戦遂行能力の低下が懸念される状況にあることから、空自のレディネスについて改めて考え、練成訓練の基準や目標の見直し、能力評価のあり方の検討・見直しのみならず個人並びに部隊に対する教育・訓練のあり方についても抜本的に見直す時期にあるのではないだろうか。

「防衛生産技術基盤の強化に向けて:現状と課題」(令和7年2月21日:尾上定正)

 このプレゼン資料は、F3プロジェクト・メンバーでもある尾上定正が、防衛基盤整備協会主催の令和6年度第3回防衛学講演会(会場・ホテルグランドヒル市ヶ谷)において、使用したものです。
 なお、防衛基盤整備協会による防衛学講演会は、防衛思想の普及に関する事業の一環として、有識者を招へいして我が国を取り巻く国際情勢の理解を深めることを目的に実施されています。

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我が国の総合ミサイル防空が目指すべき方向性について(令和2年8月28日:福江広明)

1 はじめに

  1990年代以降、グローバルな安全保障環境の中で経空脅威は、質・量共に増加の一途を辿ってきた。近年においては第5世代戦闘機に代表されるように有人航空機の性能向上が著しく、無人機の多用途化による脅威も増大している。これにも増して多くの国が安全保障上の対処に苦慮しているのが、ミサイル脅威である。
 
  我が国は、湾岸戦争におけるスカッド・ミサイルに関連する教訓及び北朝鮮の弾道ミサイル脅威の顕在化をきっかけに、本格的な弾道ミサイル防衛(Ballistic Missile Defense:BMD)に着手し、多層防御の態勢構築を推し進めてきた。
 
  現在では、各種の弾道ミサイルのみならず、様々なプラットフォームから発射される長射程化、超高速化、精密誘導化、ステルス化したミサイルによる飽和攻撃に、有効に対処するための能力及び体制の整備が焦眉の急である。 
  
  このミサイル脅威への対処体制を構築するにあたって、気掛かりな点がある。「平成31年度以降に係る防衛計画の大綱について」(以下、「大綱」)の「日米同盟の抑止及び対処力の強化」の項において、我が国の平和と安全を確保するためのあらゆる措置を講ずる上で、米国との間で各種の運用協力及び政策調整を一層深化させるとする対象項目の「宇宙領域やサイバー領域等における協力」、「共同訓練・演習」、「共同のISR活動」、「共同計画の策定・更新」等と並列の関係で、「総合ミサイル防空」が記述されていることである。
  
  陸海空自衛隊が保有する防空用装備品のネットワーク化が未完の状態のまま、日米間のネットワーク議案が日米協議の俎上に載れば、相互運用性の観点からネットワーク技術において先行している米国が製造する関連装置を、総合ミサイル防空にかかる国内装備品の全てに搭載せざるを得ない状況が生起しかねないからである。
  
  このため、本稿では、将来的に一層増大する経空脅威に対して我が国の有効な対処能力となるため、総合ミサイル防空が目指すべき方向性について、我が国独自の対処力を確立することと、実効性ある日米共同作戦を遂行することの両観点から、ネットワーク化をキーワードとして考察し提言することを目的とした。
  
  まず、我が国の総合ミサイル防空と米国の統合防空ミサイル防衛(以下、「IAMD」)の違いを説明するとともに、両構想の現状及び抱える課題を明らかにする。
  次に、中国のA2AD戦略におけるミサイル脅威の現況を述べた上で、我が国防衛産業の維持及び国内防衛技術力の進展を踏まえた、我が国国内のあらゆる防空用装備品のネットワーク化を最優先することを提言する。
  最後に、我が国が総合ミサイル防空からIAMDへの進化を今後追求していくにあたっての重視すべき事項を検討する。

 

2 米国IAMDの現状と課題等

(1)IAMDの概念及び現状認識

   我が国が総合ミサイル防空のモデルとしている米国のIAMDは、既に米軍統合文書において定義され、諸事業が着実に進捗している。防衛研究所紀要(2017年12月「米国におけるIAMDに関する取組み」)によれば、「IAMDは対航空の諸作戦をグローバルミサイル防衛、米本土防衛、グローバル攻撃及びロケット弾・野戦砲弾・迫撃砲弾への対応策と同調させるアプローチである。ここで対航空とは、戦域レベルの基本的枠組みであり、敵の航空機やミサイルを離陸・発射の前後において無力化または破壊する攻防両面の作戦を統合した概念である」と説明している。 
   
   また、同紀要では、米国は自国及び同盟国等に対する航空・ミサイル脅威を抑止及び対処するために、攻撃作戦、積極防衛、消極防衛を一体化させたIAMD構想を推進し、同構想が将来の経空脅威に対する解決策となり得ると付言している。
   
   米国IAMDについての現状認識を理解する上で、米国シンクタンク(CSBA(Center for Strategic Budgetary and Assessments):戦略予算評価センター)が今年1月に出した報告書「米空軍の将来の戦闘空軍力に関する5つの優先事項」が参考となる。同報告書は、大国間の競争相手である中露とのハイエンドな戦いを抑止し、勝利するために米空軍が優先すべき5つの事項を提言している。その第3章「前線で戦闘空軍力を発揮」に、米空軍が今後ともIAMDを重要視する姿勢がうかがえる記述がある。
   
   当該章では、大国からの攻撃を受けている間も前線で戦闘力を発揮できる能力を向上させる方法を示している。その中で、IAMD能力なしには前線基地から戦闘能力を発揮することは困難として、強靭な前方展開態勢を構築するために優先度の高い能力の一つにIAMDを挙げている。
   具体的には、弾道ミサイルや極超音速ミサイルを要撃できるUAS(Unmanned Aircraft System)の開発、巡航ミサイル及び無人機による攻撃に対処するレーザー兵器の開発等といった物理的、非物理的な手段によるIAMD能力の向上を図るべきと提言している。

(2)米国IADMが抱える課題

  ア C2システムの統合化

    統合戦力の発揮においては、従前からも難題であったC2システムがIAMDでも大きな課題となっている。現状では、我が保有する全ての対空システムの能力を把握し、変化する敵情に対して我に優勢をもたらす戦力発揮の判断を下すことができる統合C2システムは存在していないと認識している。  
    
    こうした課題認識を持ちつつも、C2システムの統合化に寄せる期待は米国内でも高い。その示唆を与える文書の一つに米空軍態勢報告書がある。同報告書は、毎年、次年度の予算要求を実施するにあたり、米国議会軍事委員会等における公聴会で、空軍長官及び空軍参謀長の2名が米空軍の予算要求にかかる考え方を説明するために使用するものである。
    
    その最新の報告書によれば、将来のハイエンドな戦いにおいて勝利するための新たな作戦構想として統合全領域作戦(Joint All Domain Operation:JADO)が提示されており、米空軍はこの作戦を遂行するためのJADC2(Joint All Domain Command and Control:JADC2)システムを重視しているとの記述がある。つまり、戦いのあらゆる領域において網羅的に指揮統制できるシステムの構築を強く望んでいるわけである。
    
    今後、C2の統合化に関しては、技術的な課題よりも、指揮権行使及び権限委任の問題を軍種間で調整することの方が困難を極めると予想するが、戦域において効果的な統合作戦を遂行するためにC2システム開発は加速化するはずである。

  イ 防勢対航空(DCA)と攻勢対航空(OCA)の一体化

    米軍統合文書「対航空・ミサイル脅威」Counter Air and Missile Threats)において、IAMDはDCAとOCAを一体化して行うと定義されている。この点について先述した防衛研究所紀要によれば、IAMDの目的は敵の航空・ミサイル戦力の使用を抑止することにあり、DCAとOCAの一体化が拒否的抑止に大きく寄与すると分析している。
    
    加えて、IAMDの枠組みにおいて具体的に両者をいかに一体化させるか、それらの一体化により抑止をいかに達成するかについての米国内の議論は十分になされていないとも指摘している。   
    一方で、IAMDの定義には、対航空の諸作戦をグローバルミサイル防衛、米本土防衛、グローバル攻撃等と密接に連携して行うこととされていることから、IAMDの運用にあたっては、拡大抑止(核及び通常兵器による)の観点でも大いに議論の余地があることになる。
    
    したがって、今後、米国では拒否的抑止の観点から、DCA及びOCAの一体化のための具体的要領、作戦サイクルにおける実施要領等について明らかにされるとともに、拡大抑止の観点では、米国内のみならず同盟国等も巻き込んだ議論がなされていく可能性があると考える。

  ウ 新領域関連システムとの連動化

    現代では、いわゆる新領域における技術革新が目覚ましく、これに伴って、特に中露のネットワークにかかる攻防能力が高まり、NCW(Network Centric Warfare)を提唱した米国をその能力において凌駕し、戦力発揮の優位性が失われつつある。このことは、宇宙作戦、サイバー戦、電子戦と効果的に連動して戦果を獲得するIAMDにとって極めて深刻な事態である。   
    
    この数年にわたり、米国は宇宙、サイバー、電磁波の各領域における優位性を回復するために、予算及び人員の優先的に投じているが、それぞれの領域における優勢を確保することが当面の目標となっており、IAMDの有効発揮に各領域のシステムをいかに組み入れていくかは、これからの課題であろう。
    
    ちなみに、宇宙領域においては、昨年末に米宇宙軍を独立した軍種として設立し、新たな組織編制に基づく体制構築に取り組みながら、関連のドクトリン、各種規範、規則等について作成・検討の段階にあると思われる。
    
    また、サイバー領域における優勢の確保については、空軍態勢報告書によると、サイバー任務部隊はすでに作戦可能態勢となっており、統合サイバーCC(Joint Cyber Command & Control)システムが戦闘指揮官にサイバー領域の状況認識を提供し、サイバー戦力の戦闘管理を可能にするとしている。
    電磁波領域にあっては、電磁スペクトラム管理の成否が勝敗の鍵となるとされており、ネットワークの攻防において極めて重要と考えられている。
    
    いずれにしても、米国が今後ともIAMDを常続的に、かつ効果的に実施することでハイエンドな戦いに勝利するためには、宇宙、サイバー、電磁波の各領域における各種システムとの密接な連動により圧倒的な優位を確保することが不可欠である。

(3)米国IAMDの将来動向

   米国各軍種は、それぞれの構想に従ってIAMDを早期にシステム化しようとしている。今後は、データ通信及びネットワークの関連技術が進展するに伴い、各軍種のIAMDは段階的に進化するとともに、軍種間のリアルタイム連接も実現するであろう。   
   
    その一つの可能性として、IAMDの取組みの中核にあって重要な役割を担う米統合参謀本部・統合IAMD局(Joint IAMD Organization:JIAMDO)の統制下で、陸軍が地上配備型の各種装備品をネットワーク化して防空及びミサイル防衛の効率性を高めるために開発している「IAMD戦闘指揮システム(IAMD Battle Command System:IBCS)」に、海空配備の関連装備品を連接することで、全ての軍種を対象にした統合ネットワーク化に向かうことが考えられる。
   
    ただし、防衛研究所紀要は、米国IADM構想には未知数的な部分が多いことから、同構想の全体像を把握することは困難であり、実現は試行錯誤の連続であろうと指摘している。このことから、米国IAMD構想及びその事業化の後追いによって我が国の総合ミサイル防空を拡充する場合、大きなリスクが伴うことになると言える。

 

3 我が国の総合ミサイル防空の概念と課題等

(1)総合ミサイル防空の概念

   大綱において「総合ミサイル防空」という用語が初めて登場し、令和元年度以降の防衛白書(以下、「白書」)では、その概要とイメージ図が掲載された。具体的には、「経空脅威に対し、最適な手段による効果的・効率的な対処を行い、被害を極限するためには、ミサイル防衛にかかる各種装備品に加え、従来、各自衛隊で個別に運用してきた防空のための各種装備品も併せ、一体的に運用する体制を確立し、平素から常時持続的に我が国全土を防護するとともに、多数の複合的な経空脅威についても同時対処できる総合ミサイル防空能力を強化していく必要がある」と記述されている。  
   
   この文章を先述した米国IAMDの概念に照らし合わせると、総合ミサイル防空については、弾道ミサイルを含む経空脅威に対する積極防衛のみがその範疇にあると考えられる。したがって、総合ミサイル防空は攻撃作戦を実施しない点がIAMDと大きく異なる点であり、経空脅威に対処する各種装備品を一体的に運用する体制を確立すること、多数の複合的な脅威にも同時対処できる能力の強化という点においては、米国のIAMD構想と一致していると言えるだろう。


(2)総合ミサイル防空構想に至る経緯及び現状

   湾岸戦争後、ネットワーク化による作戦遂行上の優位性を獲得するとしたNCWの概念を米海軍が提唱して、既に20年以上が経過している。

   この間、国際的にネットワークが情報を共有する上で極めて有効な手段として定着して、各種作戦を迅速に行うことが可能となった。このため、ネットワークは戦局に大きな影響を及ぼす戦力発揮要素として注目され続けている。 
   
   ネットワーク自体が重要視される中、米国はIAMDを概念から実用化に向けて急速に整備してきている。
   一方、我が国は北朝鮮の弾道ミサイル脅威への対処の観点から、BMD態勢の充実のためにネットワークをはじめ各種施策の強化を図ってきたものの、2016年の「将来の統合防空の在り方に関する調査研究」が、従来の防空作戦との一体化に関連する初めての事業であった。翌年には、これまでBMD特別訓練として実施していた訓練を日米共同統合防空・ミサイル防衛訓練として実施する等を経て、前項で述べた総合ミサイル防空の概念を明らかにしている。
   
   しかし、いまだにこの総合ミサイル防空を具現化する明確な方向性が示されていないとの疑問が持たれている。


(3)総合ミサイル防空が抱える課題

   経空脅威が安全保障に及ぼす影響に各国が注目する中、2006年3自衛隊の一体的運用を目的とした統合幕僚監部が設立されたことも関連して、将来防空の在り方について関心が高まり、防空用装備品に関する統合化の動きが生じた。その後、内局及び統幕が中心となり将来防空に関する検討・研究が実施されたと聞き及んでいる。  
   しかし、当時はBMDにかかる体制整備の着実な進展、及び各自衛隊による予算・人員の絶対的確保等が優先されたためか、従来の防空とBMDを同時に、かつ効率的に実施するための検討会等は断続的な開催であったようである。
  
   したがって、将来における経空脅威に対して、3自衛隊による統合防空のための体制をいかに構築し、その能力を向上していくべきかについて、現在でも明らかになっていないとの危惧を抱かざるを得ない。
   その一方で、各自衛隊は、ネットワークを巡る攻防が重視される現代にあって米軍の作戦遂行能力に後れを取らぬように、「センサー・トゥ・シューター(リアルタイムで入手した情報を精密誘導兵器との間で共有し、攻撃/反撃するシステム)」構想の下、ネットワーク化に積極的に取り組んでいる。
   
   しかし、いずれの自衛隊にあっても、センサー・トゥ・シューターに関連するあらゆる装備品をネットワーク化する段階には至っていない。ましてや3自衛隊を跨いだ、いわゆる統合ネットワーク化については、早い時期からその必要性は十分に認識されているが、調査研究あるいは検討の域にあると思われる。
   
   むしろ、日米共同のためのネットワーク化の方が進捗している。例えば、海自においては、「まや」型イージス艦が「海軍統合火力統制-対航空(Naval Integrated Fire Control-Counter Air:NIFC-CA)」を保有したことで、空自が導入するE-2Dと連携して共同交戦能力(Cooperative Engagement Capability:CEC)を発揮することが可能となっている。空自も、F-35がMADL(Multifunction Advanced Data Link)を搭載することで同一機種間の連携が可能となる。このようにLINK16も含めてネットワークを形成するためのシステムは、米国製が席巻している感が否めない。
   
   したがって、3自衛隊がそれぞれのネットワークによりキル・チェーンを構築して、協同という形態で総合戦力化する戦い方を一刻も早く改め、国内装備の統合ネットワーク化及びそれに伴う組織・装備の最適化を目指すべきである。
   このためには、統合上の課題の一つであり、白書においても触れられている防衛省自衛隊の「縦割り」による事業管理を無くしていくことが強く求められる。
   
   その上で、例えば、空自が保有するペトリオットシステムと陸自・中SAM、陸自JTPSP25レーダーとペトリオットミサイルの組み合わせでEOR(Engage on Remote)を試行する等、異なる自衛隊が保有する機種のネットワーク連接による統合戦力発揮評価への取組みも進んでいくものと考える。

 

4 中国A2AD(ミサイル脅威)への対抗手段としての総合ミサイル防空の強化

(1)我が国に対する中国のミサイル脅威

   中国のミサイル戦力の近代化は著しい。特に、短距離弾道ミサイルについてはDF-11、15、16及びDH-10を多数台湾正面に配備しており、我が国固有の領土である尖閣諸島を含む南西諸島の一部もその射程に入っているとみられる。また、中距離弾道ミサイルにあっては、命中精度の高いDF-21が我が国本土も射程に収めている。
   さらには、昨年10月中国が軍事パレードで初公開した極超音速滑空ミサイル・DF-17は、既に実戦配備されていると言われている。
  
   南西地域における島嶼防衛のシナリオにおいて、最も対応困難な侵攻様相について、元航空教育集団司令官の荒木淳一氏は、BMとCM(巡航ミサイル)による飽和攻撃であり、中国が「まず麻痺させ、次いで殲滅する」という軍事ドクトリンを有していると言われていることを挙げている。また、数多くの課題を抱える対BM/CM対処ではあるが、我が国の島嶼防衛に必要不可欠機能であると同時に、中国のA2ADを否定することに寄与できることから、実効的な総合ミサイル防空体制の構築は優先課題のひとつだと主張している。
   
   さらに、同氏は中国が保有する圧倒的なミサイル脅威を平素から抑止し、台湾有事及び尖閣諸島での事態が生起した場合における対処のためには、我が国にとって米国IAMDとの連携が不可欠であるとも指摘している。
   
   米国も、世界のいかなる戦闘地域において効果的なIAMDを実行するにあたり、同盟国等が米国IAMDとの一体運用を可能とする応分の戦力を提供することに強い関心を持っていることから、我が国南西域での共同IAMDの実行可能性は高いと言える。

(2)我が国独自対処能力としての総合ミサイル防空の強化

  ア 我が国内の関連装備品のネットワーク化は急務

    我が国の総合ミサイル防空は、白書に掲載されたイメージ図を具現化すべく様々な施策が講じられ能力強化が進められることになる。その中核となるのが、航空自衛隊が長年にわたり防衛予算を優先的に投じて機能の拡充に努めてきた自動警戒管制システム(Japan Aerospace Defense Ground Environment:JADGE)である。

    
    従来の防空作戦については、JADGEの前身であるBADGE(Base Air Defense Ground Environment)が運用されていた時代からのノウハウとデータの蓄積があることから、BMD任務等を併行して実施していくのに大きな課題はないであろう。このJADGEにあらゆる陸海空のセンサー及びシューターを連接して、防空の範囲を広げ、迎撃率を高めていくことが期待されている。このために、総合ミサイル防空にとって国内の防空関連装備品のネットワーク化が重要となるわけである。
    
    今年5月、中国は自国の海軍力を増強し、日本に対して戦闘能力で圧倒的優位に立ったとする報告書が、米国のCSBAから公表された。特に注目すべきは、保有するミサイル戦力をもって我が国の防衛態勢を打ち負かす実力を身に付けつつあることと、尖閣諸島の侵攻において米軍に介入させない具体的なシナリオを作成していることである。 
    
    我が国は独立国家として、これまで着実な防衛力整備を行ってきているが、この報告書に記された内容が事実であるとの想定に立って、あらためて独自の抑止・対処を重視した防衛力強化を図らなければならない。
    一方で、前項で述べたように、日米共同によるIAMD体制の構築を予期して、米軍が使用するネットワーク・システムを我が国も相互運用性の観点から共通装備化すべきとの考えがあるようだ。
    
    しかし、自衛隊による単独対処の事態想定及び将来における日米同盟の不確実性等を考慮すると、米軍が保有する各種装備品とのネットワーク事業を現時点から優先することにはリスクが伴うものと考える。まずは3自衛隊が保有するあらゆる関連装備品を国産の端末装置/システムによって、ネットワーク化することを先んじるべきと強調したい。
    
    日米共同のためのネットワーク化は、必ずしも日米両装備品が同一のネットワーク端末装置/システムを搭載(使用)することによってのみ可能となるわけでない。他の技術的連接の可能性を示す例として、2015年に米国高等研究計画局(DARPA)は、全ての我の航空機(無人機を含む)がネットワーク化された中で、敵の妨害活動を回避しながら、瞬時に様々なセンサー情報を共有することを目標とするDyNAMO(Dynamic Network Adaptation for Mission Optimization)プログラムを明らかにしている。
    その後も、多様なプラットフォーム間のネットワーク化を可能する技術の開発、試験に取り組んでおり、同プログラムに関して海軍及び海兵隊の部隊が相互運用性を確認するための実験を今年中に行うとの発表もある。  
    
    このプログラムが実現すれば、装備品及びシステムの形態にかかわらず、柔軟にネットワークを形成することが可能となる。つまり、我が国の総合ミサイル防空と米国IAMDのネットワーク化においては、連接のための端末装置を共通化して互いの装備品に搭載することが必須ではないことになる。この点においては、DyNAMOプログラムに相当するゲートウェイを我が国も開発して実用化できるようになることを期待したい。

  イ 総合ミサイル防空の強化における優先事業

    我が国が総合ミサイル防空の能力強化を今後とも図っていく上で、これまで述べてきた国内の全防空装備品のネットワーク化と共に、優先的に整備する事業項目として次の3点を挙げたい。  
    
    まずは、ネットワークにかかる攻防力の強化である。ネットワーク自体は単に形成しただけでは脆弱な存在であり、その一時的な中断や運用不能状態にみまわれると、作戦指揮が途絶し任務遂行に大きな支障を来すおそれが生じることになる。
    このため、ネットワーク防護の観点からは、衛星・サイバー攻撃及びEMP(電磁パルス)攻撃に対する抗たん性を高めるとともに電磁スペクトラム領域における十分な態勢整備が重要となる。と同時に、ネットワーク攻撃の観点では、我の作戦を優位に遂行するために、敵ネットワークの破壊・運用中断を目的とした・サイバー及びEMP等による攻撃力も保有しておかなければならない。ネットワークの攻防力の増強は、新領域とされる宇宙・サイバー・電磁波に関連する装備及びシステムの拡充を図る中で確実に実施すべき重要な事業である。
    
    次に、OCA手段の確保である。先述したとおり米国IAMDではDCAとOCAの一体運用が拒否的抑止力を高めるとされている。このIAMDと同様に我が国も総合ミサイル防空においては、物理的な戦術的攻撃力を確実に整備してOCA能力を確保しておくことが極めて重要である。
    
    先月、政府が地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画を断念したことに伴い、敵基地攻撃能力の保有に向けた議論が再び活発になってきた。本格的なミサイル飽和攻撃事態における攻撃力に関しては依然として米軍に依存せざるを得ないだろうが、我が国が攻勢対航空の一つの手段として敵基地攻撃能力を保有し、作戦遂行上その能力発揮が可能となれば、米軍の介入や来援がない場合の抑止・対処力が格段に高まることになる。
    
    3つ目は先進技術の研究開発・導入の推進である。EMPや高出力レーザー等の先進技術に基づく装備の実用化を促進することを強く求めたい。敵のISR機能を制限・喪失されるEMP、ミサイル対処を目的とする高出力レーザーを搭載した装備の出現は、ゲームチェンジャーとしての威力発揮を期待できる。また、これらの先進技術装備品はUASとの組み合わせによって総合ミサイル防空を展開する戦域を拡大することも可能となる。

 

5 実効性ある日米共同IAMDへの進化

  米国は、ミサイルが主力となる近代戦に備えて、より効率的なIAMD態勢を構築するにあたって、自国の取組みのみならず同盟国等に対してIAMD能力(又は相当の能力)の強化・拡充をこれからも強く求めてくるだろう。  
  以前、米空軍司令官から我が国の南西域において、日米が中国と対峙した場合の戦力比に関して一般情報に基づくブリーフィングを受けたことがある。詳細な戦力構成に関しては言及されなかったが、航空機及び艦船の規模において日米豪の共同戦力でようやく対等になるとのことであった。
  
  このことから推察できるのは、米国がIAMDの相互運用性について一層の理解と協力を求めてくることである。また、将来的にはオーストラリア等、米国との同盟関係等にある国との間でも、共同体制下のIAMDに関する相互運用性の向上に取り組んでいくことになるであろう。
  こうした動きの中で、同盟国等の間における最大の課題と予測されるのが、IAMDを共同して運用するにあたってのC2システムである。
  
  C2の統合化については、3自衛隊の統合においても喫緊の課題だと述べたが、国際社会において同盟国等の軍事機密を知り得ることにもなりかねないため、極めて慎重な姿勢をとらざるを得ないのが実状である。
  この点に関して、防衛研究所紀要では、次のように述べている。「IAMDに関する国際交渉の大きな争点となるのは、C2システムの統合であろう。これは、同一の目標に対する重複射撃や友軍相撃を避けつつ効率的・効果的な共同作戦を遂行するために必須である。
  そのためには米国と同盟国・友好国のC2システムを共通のネットワークで統合した上で、共通作戦状況図及び共通戦術状況図の作成に必要なデータ共有が各国間で行われなければならない。しかし、C2システムのネットワーク統合は各国のC2システム間の相互運用性が確保されていることが前提であり、またデータ共有についても国外への情報開示に関する各国の政策を調整する必要がある。」  
  
  こうした見解から、日米双方は一層緊密な協議を図ることが必要となり、日米は防衛協力の指針(ガイドライン)の下で自衛隊と米軍を一体運用するための同盟調整メカニズム(ACM)を活用して解決に向かうことになると思われる。
  
  次に、要員の教育訓練である。共同体制下のIAMDの実施においては、自国内の他の作戦と連携する必要があるとともに、共同する同盟国等との常続的で綿密な調整・実行を求められることになる。クルー編成についても、当該要員の規模は数百名に及ぶことになるであろう。
  
  したがって、共同のIAMDに従事する要員については、基幹となる要員は米国が運営するハワイの太平洋IAMDセンターにおける教育を受け、一般要員は国内において、統合の専門教育課程又は機関を整備すべきである。
  特に、2014年10月に設立された太平洋IAMDセンターは、IAMDの最新知識の普及、インド太平洋地域内における同盟国等との共同IAMDの拡充等を目的としているため、同センターに定期的に自衛隊からの専門要員を派遣し、作戦運用から訓練演習に至る幅広い見識を高めることが必要である。
  
  また、今後は米国をはじめとする同盟国等との間で、主として共同のIAMDにかかる共同指揮所演習の頻度を増やす等して、要員の練度養成に注力することが望まれる。
  こうした人的戦力の養成・確保の次に考えなければならないのが、後方・補給の問題である。特に弾薬の備蓄配分については、ミサイル脅威が顕著になる以前から常に検討を余儀なくされてきた独自対処上の、かつ日米共同上の大きな問題でもある。
  
  将来戦において中国の圧倒的なミサイル脅威による飽和攻撃を受けた場合、弾薬の消耗、関連装備の要修理等は従前の比ではない状況に至るはずである。弾薬に関しては、国内での増産・備蓄、米国製弾薬の緊急調達要領等の確立が必要となる。また、自衛隊はもちろんのこと米軍装備品の修理等に関しても、我が国内の防衛産業が対応することを事前に考えておくべきである。

 

6 結びに

  本稿では、近年高まる経空脅威、特にミサイルによる飽和攻撃に対して、抑止及び対処の有効な手段である我が国の総合ミサイル防空が目指すべき方向性を、国内諸事情及び米国IAMDの将来動向に照らしながら、明らかにしてきた。併せて、総合ミサイル防空を具現化していく上で、優先すべき施策・事業にも付言してきたところである。
  
  中国の圧倒的なミサイル脅威に対処するためには、日米共同による強靭なIAMD態勢の構築が望ましいものの、我が国が独自に対処しなければならない事態の想定、並びに我が国防衛産業基盤の確保等にかんがみ、総合ミサイル防空の具現化にあたっては、まず国内のあらゆる防空用装備品をネットワーク化することを最優先すべきであると指摘した。
  その上で、日米双方が様々な技術的、政策的な問題を解決するために協議を重ねつつ、米国IAMDとの本格的な連接に向かうべきと提言した。
  
  また、我が国が総合ミサイル防空能力を将来的に拡充させ、経空脅威への独自対処力をある程度保持するために、①ネットワークの攻防能力の強化②攻勢対航空手段の充実③先進技術開発等の継続的推進を重視事項として挙げた。特に、我が国が将来において実効的なIAMDを目指すためには、米国同様に攻勢対航空能力を保有することが強く望まれる。
  加えて、今回は本文中で触れることはなかったが、総合ミサイル防空では焦点が当たっていないように見られる消極防衛による各種被害極限施策の充実が必要である。
  
  最後に、米国IAMDの抱える課題と将来動向を見据えながら、日米の相互運用性のさらなる向上を図り、日米共同IAMDをより強固にするために、①共同の指揮②相互連携による教育訓練③実効的な後方補給が重要であるとの示唆が得られた。
  
  一方、我が国の総合ミサイル防空が実現すべきあるべき姿を、編成組織、指揮通信、作戦運用といった項目ごとに具体的な例をもって示すことはできなかった。ネットワーク化に関しても、米国における先行研究の概要のみに触れ、技術的な課題を明らかにすることができず、その解決の方向性についても分析するまでには至らなかった。
  
  今後は、我が国の総合ミサイル防空をより進化させ、ミサイル飽和攻撃への単独対処及び日米共同の両面において、その真価を発揮するために必要な防衛政策の見直し等に焦点を当てた検討に取り組んでいきたい。